人間って、時々不便だなと思います。
覚えたいことはなかなか覚えられないのに、
忘れたいことはなかなか忘れることができない。
覚えられないから先に進めないこともあるけれど、
忘れられないから先に進めないこともある。
「ずっと忘れない」というのは、人間が持つ重要な能力の1つです。
その一方で、「すぐに忘れる」というのもまた、人間の重要な能力の1つと言えますね。
私(久末)は日頃から英文法を教えていて、あるいは発音を指導していて、なかなか理解できなかったり、上達できなかったりする生徒達を観察していると、なんとな~く、共通点があることに気づきました。
「理解や上達が遅い」のは、次のどちらのタイプだと思いますか?
1. 記憶力が悪く、なかなか覚えない。
2. 記憶力が良く、なかなか忘れない。
普通は「1」と答えるかもしれません。
ところが、私が感じるのは、「2」の人達の方が理解や上達が遅いのではないか、ということです。
これはどういうことでしょう?
普通、「記憶力が良い」と言えば、「頭が良い」と認められます。
ところが、「記憶力が良く、忘れることができない」という人の場合、なかなか「切り替えることができない」という弱点があったりします。
先入観というか、まっさらな気持ちで次に取り組むべき事象を観察することができない。
過去の記憶から「次を予測」することは上手だけれども、先に予測を立ててしまうがために、きちんと観察し終わらないうちに結論を出してしまう。
こういう人は、記憶力の良さが仇となって、「物事を本質的に、客観的に捉える」ということができなかったりするのです。
もちろん、性格的に「早とちり」とか「思い込みが激しい」とかいうことも原因と言えますが、「記憶力の良い人」ほど「早とちり」や「思い込み」をしてしまいがちだ、ということも当てはまるような気がします。
『外国語を学ぶには、頭が良くなくてはならない。』
『頭が良いというのは、記憶力が良いということだ。』
『だから、記憶力を高めて行こう。』
こういう思考パターンが働いてしまうと、もしかすると余計に理解や上達が遅れてしまうかもしれません。
「何かを理解する」とか「何かで上達する」ためには、「物事をいくつもの視点で観察する」ということが必要になります。
「いくつもの視点で観察する」ということは、「視点を切り替える」ということです。
そして、「視点を切り替える」ということは、「さっきまで見ていた視点を、いったん忘れる」ということです。
「忘れることができない」のであれば、新しい視点に目を向けることが困難です。
「切り替える」と「忘れる」は同じこと。
逆に言えば、「忘れられない」ならば「切り替えることができない」ということになります。
つまり、「忘れてしまう」ということを素直に受け入れた人の方が「切り替える」ことが上手なのです。
私はよく人に「切り替えが早い」と言われます。
私自身もそう思います。
ですが、私には「すぐに忘れてしまう」という一面もあります。
ついさっきまで話していたのに、もう別のことに意識が飛んでいる。
ですが、その話に戻れば、すぐにそのことに意識も戻る。
いったん戻ってしまったら、その直前にやっていたことはもはや忘れている。
べ、べつに「忘れっぽい」ことの言い訳をしているわけではありませんよ(笑)
でも、理解が早い人や上達が早い人を見ていると、やっぱり「切り替える力」があるな、と感じます。
それはつまり「忘れる力」なんだろうと思います。
「忘れる力」がある人ほど「切り替える力」があって、「切り替える力」がある人ほど、「理解」や「上達」が早いのだろうと思うのです。
だけど、人間、そううまくいかないものです。
だから人間って、時々不便だなと思うのです。
覚えたいことはなかなか覚えられないのに、
忘れたいことはなかなか忘れることができない。
覚えられないから先に進めないこともあるけれど、
忘れられないから先に進めないこともある。
「忘れる力」をもっと大切にしてみる、という価値観の切り替えが、もしかしたら物事をうまく進めるのに役に立つかもしれません。
<おしまい>
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