生徒が「分からない」と言っている場合、生徒が取り組んでいる問題自体が「考えれば答えが分かる問題」のか、「考えても答えが分からない問題」なのかを、教師は見極めなくてはなりません。

あるいは、「考えれば答えが分かる問題」であったとしても、生徒の「考える力」がどの程度あるのかを見極めることもまた重要です。

「考えても答えが分からない問題」というものも世の中にはたくさんありますから、そういうものは「辞書を調べる」なり「参考書を読む」なりして、知識を新たに得る必要があります。

しかし、「考えれば答えが分かる問題」というものも世の中にはたくさんあります。

「考えれば分かる」のに、生徒が「分からない」と言ってきた場合には、「考える力が不足している」か、あるいは「はじめから自分で考えようとしていない」かのどちらかです。

そういう場合、教師はどうすれば良いのでしょうか。

とても悩ましいところですが、「考える力が不足している」ならば、「考える力」を育てるための『何か』をしてやらなくてはなりません。

「考える力」を育てるためには、やはり「考えさせる」のが一番です。

そこで役に立つのが「考えるためのヒント」というものです。

「考えるためのヒント」を上手に出すことができれば、生徒の「考える力」はぐんぐん伸びていくことでしょう。

しかし、問題なのは、生徒が「はじめから自分で考えようとしていない」というケースです。

こういうケースに遭遇した時に、教師は、やみくもに「ヒント」を与えたり、あるいは「解説」をしてしまってはいけません。

「考える力が不足しているから、考えようとしない」ということも言えるかもしれませんが、「はじめから自分で考えようとしていない」という生徒には、「ヒント」や「解説」を与えることが、かえってその生徒の「考えようとする意欲」を奪うことになりかねません。

この辺りの線引きは、本当に難しいです。

「はじめから自分で考えようとしていない」というと、まるで、その生徒が反抗的であるかのように思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

生徒の方には「一生懸命、勉強しよう」という意欲はあるのに、それにも関わらず「はじめから自分で考えようとしない」というケースは多々あります。

そういう生徒は、多くの場合、「考えるよりも、覚える方が早い」という価値観に支配されています。

事実、「考える」ということは、もつれたヒモをほどくように、「じっくり時間をかけて取り組む」ということを要求してきます。

そんなことをやるよりも「答えを覚えてしまった方が早い」と思ってしまい、全ての勉強をその調子でやり続けてきた生徒には、学習意欲はあるにも関わらず、「はじめから自分で考えようとしない」という傾向が強くあります。

こういう生徒には、「考える」ということがなぜ必要なのか、ということをじっくりと話しかけていくしかありません。

科目によっては「覚えれば点が取れる」という問題が多いかもしれないけれど、「覚えるだけ」ではどうしても対応できないことが出てきます。

大人になってから社会に出た後も、当然「覚えれば良い」ということでは済まされないことがたくさん出てきます。

「覚える」だけに偏ってしまい、「覚えるのが得意」という生徒ほど、「考える」ということを嫌ったり、苦手意識を持っていたりします。

だからこそ、そういう生徒には「考える」ということを少しずつ練習させてやる必要があります。

生徒が「分かりません」と言ってきた時に、「ヒント」も「説明」もせずに、「まずは自分で考えてみなさい」と生徒に言うのは、かなり勇気が要ることかもしれません。

しかし、生徒の「分かりません」を文字通り受け止めるだけの教師は、結局は、生徒が「自分で考え、自分で答えにたどり着く」というところまで導くことはできません。

生徒が「考える」をやる際に「辛抱強さ」が必要であるのと同じように、教師の側にも「生徒が自分から考えるように働きかけ、じっと待つ」という「辛抱強さ」が必要なのだろうと思います。

 

<おしまい>