例えば、[æ]という発音記号。

これを教える時に、「指が3本、縦にして入るくらい、口を大きく開けましょう」というアドバイスをしている発音指導者がいます。

しかし、私はそれを聞いて、「そんな馬鹿な!」と思いました。

なぜなら、ネイティブ達が普段しゃべっている時に、指が3本も入るほど、「アホのように大きな口」でしゃべっている人など見たことがないからです。

まあ、これは極端な例ですが、口を大きく開けて発音しようと意識しなくても、自然に「大きな口」になってしまう人もいます。

「英語の発音なのだから、日本語とは違って、大げさな感じで発音しなくてはダメだ」と思ってしまうのかもしれません。

ところが、「大きな口」にしなくても、ほぼ全ての英語の音は「発音可能」です。

発音可能なはずなのに、「大きな口」にしなくてはならない、と思い込んでいる日本人が、学習者の中にも、あるいは指導者の中にもたくさんいるようです。

 

「大きな口を開けて発音する」ということをやろうとすると、逆に困った現象が起こります。

それは、「前後の別の発音とのつながりがスムーズではなくなる」というものです。

前述の[æ]という発音記号が含まれた単語として、「after」というものがあります。

最初の「a」のスペルが[æ]という記号に対応していますが、この部分を発音する際、必要以上に大きく口を開けてしまうと、その次の「f」の音に入るのに「わずかな時間」が空いてしまいます。

「f」の発音は、「下唇」と「上の前歯」を使わなくてはならないのですが、[æ]の時に口を大きく開けていると、「下唇」が「上の前歯」に届くまでに、余計に時間がかかってしまいます。

つまり、「a」と「f」のつながりがうまくいかず、単語全体として「カクカクとした音」になってしまうことがあるのです。

このことは、「後ろの音へのつながり」ばかりではなく、「前の音からのつながり」の場合にも問題となります。

最近は、発音の指導をしていて、生徒の発音がどうも「カクカクしている」と思っていたら、案の定「口を大きく開けて発音していた」ということがよくあります。

基本的には「口はあまり大きく開けない」という意識を持って発音するように取り組んだ方が、結果的に良い音が出ると思います。

<続く>