さて、「時制の一致」という文法項目に関する説明の続きです。
(ここまでの説明はこちら→ (1) (2) )

前回は「日本語における理解」がとても大事だということをお話しました。

今回は、それを踏まえ、「英語での表現方法」についてご説明いたします。

 

<アメブロからの続きはここから>

 

まず、前回のまとめをもう一度。

「日本語」では、「主節の述語動詞」が「過去形」になっている時、「従位節の述語動詞」の部分で、「形と意味」のズレが起こります。

A. 私は、彼が大工である、ということを知っている
B. 私は、彼が大工であった、ということを知っている
C. 私は、彼が大工である、ということを知っていた
D. 私は、彼が大工であった、ということを知っていた

この4つの表現のうち、「C」と「D」は、主節の述語動詞が「知っていた」という「過去形」になっています。

この時、従位節の「大工である」あるいは「大工であった」という部分で、「形と意味」にズレが起こっているのです。

C. 私は、彼が大工である、ということを知っていた
・・・・・・・・・【知っていた】
・・・・・・・・・【大工である】
━━━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━╋━━━━━
・・過去の過去    過 去     現 在

この「C」の表現では、「大工である」という部分は、形は「現在形」となっているのですが、意味としては「過去」のことを表していると言えます。つまり、「形と意味」でズレが生じているのです。

D. 私は、彼が大工であった、ということを知っていた

【大工であった】【知っていた】
━━━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━╋━━━━━
・・過去の過去    過 去     現 在

一方、「D」の表現でも、「大工であった」という部分で「形と意味」のズレが生じています。形は「過去形」なのですが、意味としては「過去の1時点よりさらに過去」のことを表しているのです。

 

この「C」と「D」の2つの例のように、日本語では、「主節」となっている部分の述語動詞が「過去形」の時、「従位節」となっている部分の述語動詞において、「形と意味のズレ」が生じます。

このことをよく理解できないうちは、先に進むのはやめた方が良いでしょう。

理解できない人は、「じっくり考える」ということをしながら、改めて、ここまでの説明をよく読み返すことをおすすめします。

逆に、これが理解できてしまえば、「時制の一致」と呼ばれる文法項目は、半分以上は理解できたことになります。

 

さて、英語においては、以上の「C」や「D」において、「意味の通りの形」で表現するのが普通です。

つまり、「主節」の述語動詞が「過去形」であっても、「従位節」の述語動詞において、「形と意味のズレ」は生じません。

「C」の表現の場合、「知っていた」という時点と同じにおいて「大工だった」ということを述べているわけですから、英語では、「知っていた」も「大工だった」も、どちらも「過去形」で表現されるのです。

C. 私は、彼が大工である、ということを知っていた
・・・・・・・・・【知っていた】
・・・・・・・・・【大工である】
━━━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━╋━━━━━
・・過去の過去    過 去     現 在

【英語では…】→ [C]:  I  knew  that he  was  a carpenter.

さらに、「D」の場合には、「知っていた」という主節の述語動詞は「過去」のことなので、英語でもそのまま「過去形」で表現されます。

しかし、「知っていた」という従位節の述語動詞は、日本語では「過去形」となっていますが、意味を考えると、「知っていた時点よりも昔の時点」のことを表しています。

「過去のさらに過去」について述べたい場合、英語では「過去形」ではなく「過去完了(had+過去分詞)」という形で表現されます。

D. 私は、彼が大工であった、ということを知っていた

【大工であった】【知っていた】
━━━━╋━━━━━━━╋━━━━━━━╋━━━━━
・・過去の過去    過 去     現 在

【英語では…】→ [D]:  I  knew  that he  had been  a carpenter.

 

「時」の表現というものは、英語では基本的に「動詞の形」によって表現されるものです。もちろん、日本語でも「動詞の形」は時を表します。

しかし、主節と従位節から成る「複文」(特に、従位節が「名詞節」となっている複文)において、主節の述語動詞が「過去形」となっている場合、日本語においては、従位節の述語動詞で「形と意味のズレ」が生じます。

日本語において起こる「形と意味のズレ」というものは、英語でも起こるというわけではありませんから、「和文を英文に訳す際」あるいは「英文を和文に訳す際」には、この「ズレ」を修正しなくてはなりません。

上記の「C」の例においては、日本語では「主節」で「過去形」が使われ、「従位節」で「現在形」が使われていますが、「形と意味のズレ」が生じているので、英語では「従位節」でも意味に合わせて「過去形」にすることとなります。

そうなると、日本人にとっては、「主節で過去形が使われた場合、英語では従位節も過去形となる」というような解釈になるのかもしれません。

しかし、そもそもそれは「C」の場合に限った話であり、「D」の場合には、従位節では「過去形」ではなく「過去完了」が使われるわけです。

さらに言えば、「従位節」が「名詞節」ではない場合、つまり「形容詞節」や「副詞節」の場合には、日本語においても「形と意味のズレ」は起きにくくなります。その場合、英語と日本語の間にも「ズレ」が生じませんので、「時制の一致」という考え方が必要なくなります。

 

以下、従位節が「名詞節」となっているような複文において、「英語」と「日本語」との間で「ズレ」が生じるかどうかを表にまとめてみました。

英語 従位節での
時制のズレ
日本語
1 主節=現在形
従位節=現在形
なし 主節=現在形
従位節=現在形
2 主節=現在形
従位節=過去形
 なし 主節=現在形
従位節=過去形 
3 主節=過去形
従位節=過去形
 あり 主節=過去形
従位節=現在形
4 主節=過去形
従位節=過去進行形
 あり 主節=過去形
従位節=現在進行形
5 主節=過去形
従位節=過去完了
(「完了・結果・経験・
継続」のいずれかの意)
  あり 主節=過去形
従位節=現在完了
6 主節=過去形
従位節=過去完了
(「過去の過去」の意)
 あり 主節=過去形
従位節=過去形

 

どうしてこのようなズレが生じるのか、「日本語の理解」と共にじっくり考えてみましょう。

難しいと言われている「時制の一致」という文法項目ですが、「日本語」を理解できれば恐るるに足らず!

文法書に書かれた「決まり文句」をそのまま鵜呑みにしないようにしましょう!