「発音がなかなか上達しない人」の共通点として、3つ目として挙げられるのが「自分に対する『疑い』が弱い」という点です。

前回、「自分の音を自分でチェックする」ということもまた、発音がなかなか上達しない人の共通点である、と書きました。

どうして自分の口から出ている音なのに、自分でチェックすることができないのでしょうか?

そもそも、「音を出す」という行為は「アウトプット」の行為と言えます。

そして、自分が出したその音を「自分でチェックする」という行為は「インプット」の行為と言えます。

「音を自分で出し、それを自分でチェックする」ということは、つまりは「アウトプットとインプットを同時に行う」ということを意味します。

「自分の音を自分でチェックする」ということができない人は、多くの場合、「音を出す(=アウトプット)」にばかり意識が傾いてしまい、肝心の「音を自分でチェックする」ということへの意識が弱くなってしまっているようです。

これは「音」に限った話ではなく、どのようなことであっても、「アウトプットとインプットを同時に行う」ということは簡単なことではありません。

簡単なことではありませんが、人間、やろうと思えばできるはずのことです。

アウトプットとインプットを同時に行う、ということがきちんとできさえすれば、発音はみるみる上達していきます。

ところが、ここでその妨げとなるのが「自分自身への疑いの弱さ」です。

自分が「アウトプット」を丁寧にやれているか、あるいは自分が「インプット」をしっかりやれているか、ということに関して、あまり自分のことを「疑っていない」人は、たいてい、アウトプットもインプットも上手くやれていません。

どうしてそのことが分かるかと言うと、私は、そういう人達が発音の練習をしているところをずっと見てきたからです。

自分のことをあまり疑わずに練習している人は、途中で自分が出している音に変化が生じた時でも、そのことに気がつきません。

そばで練習の様子を見ていて、こちらは「あ、音が変わったぞ」とすぐに気がつくのですが、練習をしている本人はそのことに気がつかず、変わってしまった音(つまり、正しくない発音)のまま、ひたすら練習を繰り返してしまいます。

「いつ気がつくのかな?」と思ってずっと見ていても、なかなか気づきません。

そのうち、私の方がしびれを切らして、「音が変わりましたよ」と伝えると、「え?」という驚いた顔をします。

この記事を読みながら、「あ、それ、私のことだ!」と心当たりのある本校の生徒の方もいらっしゃることでしょうけれど、これは決してあなた一人のことではありません。

そういう人が、かなりの割合でいる、ということです。

こういう人達に共通している3つ目のポイントこそが、「自分に対する『疑い』が弱い」ということなのです。

 

発音だろうと何だろうと、何かを「アウトプット」しようとするならば、以下のことを意識することがとても大事です。

1. アウトプットの仕方を「丁寧」にする。
2. 自分がアウトプットしたものを「自分でチェック」する。
3. アウトプットの仕方、およびインプットの仕方が、本当に正しいかどうか、自分自身に対して「疑い」を持つ。

特に3つ目がとても重要で、3つ目ができていなければ、1も2も「台無し」になってしまうことでしょう。

そうは言っても、「自分のことを疑う」ということは、慣れないうちは簡単ではありません。

「自分を信じる」と「自分を疑う」はどちらも同じくらい大事なことですが、なかなか上達しない人は、極端に「自分を疑う」ということが苦手なようです。

そこには、今まで生きてきた自分の人生における「価値観の捉え方」のようなものと深い関係がありそうです。

しかし、自分が取り組んでいるもので「上達」を目指すならば、そうした部分にさえ、自分自身でメスを入れなくてはならないように思います。

なかなか上達しないで苦しんでいる人は、是非、「自分自身への疑い」というものを強く持つように意識してみてはいかがでしょうか。

<おしまい>