意外に思うかもしれませんが、英和辞典に書かれている「発音記号」というものは、辞書によって異なります。

同じ単語であっても、辞書によって発音記号の書き方が異なるのです。

例えば、「hot」と「father」という言葉。

日本人なら「ホット」と「ファーザー」と発音することでしょう。

「hot」の「o」の部分、「father」の「a」の部分は、同じ発音ではありませんね。

しかし、辞書によっては、この2つを同じ発音記号として記載しているものもあるのです。

 

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うちの教室にある辞書で片っ端から「hot」と「father」の発音記号を調べてみました。

■ジーニアス英和辞典(第5版)(大修館)
・「hot」→ [hάːt][hɒt]
・「father」→ [fάːðər]

■ジーニアス英和辞典(第4版)(大修館)
・「hot」→ [hάːt][hɔt]
・「father」→ [fάːðər]

■ジーニアス英和辞典(第3版)(大修館)
・「hot」→ [ht]
・「father」→ [fάːðər]

■ジーニアス英和辞典(第2版)(大修館)
・「hot」→ [ht]
・「father」→ [fάːðər]

■ルミナス英和辞典(第2版)(研究社)
・「hot」→ [ht]
・「father」→ [fάːðər]

■レクシス英和辞典(第1版)(旺文社)
・「hot」→ [hά(ː)t][hɔ́t]
・「father」→ [fάːðər]

■ウィズダム英和辞典(第2版)(三省堂)
・「hot」→ [ht][hɔ́t]
・「father」→ [fάːðər]

■ランダムハウス英和大辞典(第2版)(小学館)
・「hot」→ [ht][hɔ́t]
・「father」→ [fάːðər]

■Advanced American Dictionary(Longman)
・「hot」→ [hɑt]
・「father」→ [fɑðər]

最後の「Advanced American Dictionary」はアメリカ英語に特化した辞書で、この辞書では「hot」と「father」は、どちらも同じ[ɑ]という発音になっています。

「ジーニアス英和辞典(第5版)」も、「hot」と「father」の母音で同じ発音としていますが、こちらは[ɑ]ではなく[ɑː]としています。

「レクシス英和辞典(第1版)」では、「hot」の方は[hɑ(ː)t]としており、「ː」の記号をカッコの中に入れています。

実は、この[ɑ(ː)]の発音記号は、最近の「単語テキスト」でもあちこちで見られるようになってきました。

レクシスと同じ旺文社から出ている「でる順パス単」はこの発音記号を採用しており、「hot」や「top」など、「o」のスペルで、日本人にとっては「オ」となるものを[ɑ(ː)]という記号で統一しています。

旺文社は英検用のテキストをたくさん出していますので、英検対策をしている人はよく見かける発音記号かもしれません。

ただ、私(久末)の個人的な感覚としては、「hot」の「o」と「father」の「a」のスペルの部分を同じ発音にしてしまうことには、少なからず抵抗があります。

「hot」は「o」なのですから、日本人にとっては「オ」に近い発音にすべきだと思いますし、

「father」は「a」なのですから、日本人にとっては「アー」に近い発音にすべきだと思います。

そういう意味では、「ジーニアス」の「第2版」と「第3版」、「ルミナス」、「ウィズダム」、「ランダムハウス」などは、「hot」の「o」と「father」の「a」をきっちり区別しています。

私はこれらの区別をきちんと反映している辞書を支持します。

では、本場のアメリカ英語に特化した「Advanced American Dictionary」についてはどう考えれば良いのでしょうか?

私もアメリカに住んだことがありますので、アメリカ人の発音というものがどういうものか、それなりに理解しているつもりです。

しかし、「英語」という言語は、アメリカ人だけのものではありません。

英語は、アジア、ヨーロッパ、アフリカなど、世界の多くの人々が「共通言語」として使用しているものです。

そういう意味では、「スペル」と「音」の間に何らかのつながりが見えた方が良いと思っています。

「hot」の「o」は、やはり「オ」に近い音であり、「father」の「a」は、やはり「ア」に近い音にすべきです。

「hot」を「ハート」と発音し、「father」を「ファーザァ」と発音し、どちらも「アー」という感じにしてしまうと、そこからは「スペルの区別」が見えにくくなってしまいます。

実際、「hot」と「father」は全く同じ母音を使うのかと言うと、アメリカ人であっても区別している人の方が多いだろうというのが私の見解です。

つまり、実際には異なる音だけど、似た音だから1つの記号で表してしまっても差し支えないだろう、ということです。

もちろん、それに異を唱える人もいるはずです。

私自身は、「hot」の「o」は[ɑ]という記号の音で発音し、「father」の「a」は[ɑː]という記号の音で発音するように区別しています。

あ、念のために言っておきますと、[ɑ]というのは、「オ」の音に少し「ア」を入れたような音、というのが私の感覚です。

そして、[ɑː]というのは、「オ」ではなく、日本語の「ア」をそのまま長めに発音して「アー」としたような音です。

このような区別で私はずっと英語の発音をしておりますが、いまだにアメリカ人、イギリス人、その他、世界のいろいろな人達に私の発音は褒められます。

大事なのは、「スペルと音のつながり」が見えるようにすることと、「わかりやすい発音である」ということなのだろうと思います。

辞書によって発音記号が異なるため、英語学習者には判断が難しいところだとは思いますが、「hot」の「o」と、「father」の「a」の音は、同じ音にせず、きちんと区別するのが良いと思います。