<前回の続き>
前回、「音読」や「暗唱」による学習効果の1つとして、「いつでも英語の波に乗れる」ということを書きました。
「英語の波」や「日本語の波」のように、どの言語にも、それぞれの言語に特有の「波」があるのです。
今回はこの辺りについて、もう少し詳しく説明します。
私がアメリカでの留学を終えて帰国した時(当時17歳)、私の頭の中はすっかり「英語」になっていました。
ところが、英語はスラスラと出てくるのですが、逆に母国語である「日本語」が出てこないという、なんとも困った状況にも陥ってしまっていたのです。
これは、アメリカに滞在している間ずっと「英語の音」を耳から入れ、口から出す、ということを繰り返していたためで、私の頭の中には「英語の波」しか発生していなかったということなのです。
そして、その英語の波に乗ったまま日本へ戻ってきたものですから、すぐにうまく「日本語の波」を発生させられなかったのです。
しかし、日本での生活に戻れば、再び「日本語の音」を耳から入れ、口から出すということを始めることになります。
私は元々日本人ネイティブなのですから(笑)、1週間も経たずに、すぐに「日本語の波」が頭の中に発生するようになり、スラスラと日本語が出てくるようになりました。
ところが、「日本語」がスラスラとなったのは良かったのですが、今度は「英語」が出にくくなってしまいました。
あんなに苦労して覚えた英語なのに、たった1週間足らずでもう英語が口から出にくくなっててしまっていることに、ひどく落胆したのを覚えています。
当時の私は、「日本で生活している以上、英語を話す感覚を保つのは無理だ」と考えてしまいました。
しかし、そうではないのです。
帰国してからしばらく経ったある日のこと。
テレビで、あるアメリカ映画が放映されていました。
2カ国語放送だったので、家族に無理を言って「英語の音声」で見させてもらったのですが、2時間ほどの映画を見終えた後、自分の中に変化が起きていることに私は気づきました。
なんとなく、「英語が話せる!」という感覚がよみがえってきたような気がしたのです。
そこですぐにアメリカのホストファミリーに電話してみると、まるで「帰国前」の状態に戻ったかのように英語でスラスラと話すことができたのです!
このことから、私は「2時間くらい、たっぷり英語の音に浸っていると英語の感覚がよみがえってくるんだ」ということを経験として学びました。
言語は「音」なので、「音」を耳から入れていると、その言語の「波」が頭の中で発生するのです。
そうやって、帰国したばかりの頃の私は、「英語を話そう」と思ったら、まず2時間ほどアメリカの映画を見て、頭の中に「英語の波」を発生させる必要がありました。
映画を見た後ならば、すっかり「英語の波」が発生しますから、英語を話すのは苦ではありません。
しかし、今度は逆に、すぐに日本語には戻れません。
帰国後しばらく、私の頭の中では「英語」と「日本語」の切り替えに苦労する時期が続きました。
このような感覚は、「方言」を持つ人には分かり易いかもしれません。
例えば「昔使っていた田舎の言葉」と「今使っている東京の言葉」というように、「2つの異なる言葉」を持つ人は、「言語の波」という感覚をおそらく持っているものと思われます。
普段は「東京の言葉」を耳から聞いて口から発しているので、頭の中にはすっかり「東京の言葉の波」が発生しているのです。
しかし、田舎に帰って、懐かしい家族や友達と「田舎の言葉」で話そうとすると、少しの「音」が入るだけでも頭の中に「田舎の言葉の波」が発生します。
頭の中に発生した言葉の「波」に乗ることで、その言葉を使って考えたり話したりすることができるようになるのです。
このように、「音」というものは、人の頭の中に「言語の波」を発生させるきっかけとなります。
話が長くなりましたが、「音読」や「暗唱」という学習方法によって、日頃から「英語の音」を耳から入れて口から出すということを繰り返していると、次第に「英語の波」を自在に頭の中に発生させることができるようになるのです。
事実、私自身、20歳頃から始めた音読や暗唱のおかげで、今では、「日本語」と「英語」の切り替えは、帰国直後の頃に比べて、遙かにスムーズにできるようになりました。
音読や暗唱は、「相手」が必要ではありませんから、自分の好きなときに行うことができるため、日常的に「英語の波を発生させる訓練」となり得るのです。
さて、「音読」や「暗唱」による学習効果はこれだけではありません。
次回は、別の学習効果をご紹介しますね。
どうぞお楽しみに!