昨日の出来事。

私(久末)は国際会議の仕事の関係で、朝から都内にでかけていました。

そして、夕方16:30頃。

仕事を終え、雪がしんしんと降る中、秋葉原から日暮里に出て、日暮里から常磐線で松戸に戻るところでした。

常磐線のホームで電車の時間を確認していると、私のすぐ近くから「すみません、すみません」という男性の声が聞こえてきました。

ふと見ると、どうやらその男性は全盲(全く目が見えない人)のようです。

彼のすぐ近くには、私の他には人がいないようだったので、私は「なんでしょうか?」と答えました。

彼は「ここは、ホームの何両編成の何号車辺りですか?」と尋ねてきました。

私は、ふと足下の表示を探しながら、「えっと、15両編成の8号車辺りかな」と答えました。

彼は「そうですか、ということは松戸駅だとどの辺に着くのでしょう?」と聞いてきました。

松戸駅なら私が降りる駅ですが、そういう質問に答えられる人は多くはないのではないかと私は思いました。

「えっと、何て言えばいいかな、たぶん、アトレに通じる階段の近くに着くのではないかなぁ。。。」

私はあやふやな記憶を頼りに答えました。

「松戸駅には、階段が4つありますよね?」

そう聞かれた時、私は「えっと、私も松戸で降りるので、よかったら一緒に行きましょうか?」と提案しました。

すると「あ、松戸で降りるのですか? ありがとうございます。でも、今後のために、ホームのどこに着くのか知っておきたいのです。」と彼は言いました。

私は「なるほど」と思い、松戸駅のホームのことを教えてあげました。

私:「松戸駅のホームには、確かに、4つ階段がありますね。」

彼:「松戸駅には改札口はいくつありますか? 新京成に通じるものとそうではないものとありますね?」

そう話しているところに電車が来たので、私は自分の腕を差し出し、「どうぞ、つかまってください」と言って一緒に電車に乗りました。

電車の中でも話は続きました。

私:「そうそう、松戸駅の改札口でしたね。えっと、大きな改札口と小さな改札口があります。」

彼:「松戸駅は、南北に伸びていますか? それとも東西に伸びていますか?」

私:「えっ!?」

私は、ふいの質問に戸惑いました。そんなことは、とっさには答えられない!

私:「ん~、そう言われると、ちょっと待てよ、ああ、南北かな。」

彼:「川を越えてから、左にカーブして南北に伸びていくのですね?」

私:「そうそう、そう言えばそうです。」

私は彼の理解力に驚きました。

彼:「松戸駅のホームには階段が4つあって、2つずつが向き合うような感じで、それが2箇所にあるのですよね?」

彼は、自分の両手を使いながら、ジェスチャー混じりに尋ねてきました。

私:「そうです、北寄りの2つの階段はアトレに通じる小さな改札口につながっていて、南寄りの2つの階段は中央改札とかいう大きい改札口につながっています。」

彼:「今、乗っている車両は、どの辺りに着くのでしょう?」

私:「たぶん、北寄りの2つの階段と南寄りの2つの階段の、ちょうど間くらいだったような気がしますねぇ。定かではありません。あ、あと、改札口はもう1つあります。」

ところが、もう1つの改札口について、どのように説明したら良いか、すぐに教えてあげられませんでした。

彼:「新京成に通じる改札口ですか?」

私:「いや、南寄りの階段を上っても、北寄りの階段を上っても、どちらでも新京成への乗り換え口はあります。」

彼:「常磐線の各駅停車に乗り換えるには、どこの階段が近いのでしょうか?」

私:「各駅に乗り換えるのですか? う~ん、まあ、着いたらお教えしますよ。」

そして、しばらく沈黙が続き、ようやく松戸駅に着きました。

彼は器用に荷物を網棚の上においていたのですが、電車が停車する直前に、それをまたうまく自分で取りました。

私は、こういう時には手を貸さないことにしています。

もしも失敗するようなことがあれば、その時に初めて手を貸そうと思いました。

しかし、そんな心配をよそに、彼は上手に荷物を持って、電車を降りる体制に入りました。

私はまた「どうぞ、つかまってください」と言いながら、自分の腕を彼の前に持っていきました。

彼は私の腕をつかみ「ありがとうございます」とまた礼を言っています。

電車を降り、人の流れが自分たちの目の前を横切っていきます。

私はホームに降りてすぐのところで立ち止まり、彼に言いました。

私:「ここは、ホームの待合室のところですね。ちょうど、北寄りの階段と南寄りの階段の真ん中あたりです。」

彼:「ははぁ、なるほど、分かりました。」

私は彼を連れて、エスカレータのある階段に向かいました。

私:「この階段は南から2つ目の階段です。このホームで唯一エスカレータがついている階段です。」

彼:「そうだったんですか。」

エスカレータを上り終えた少し先のところで、90度左へ曲がりました。

そして、少し歩いて、すぐに立ち止まって言いました。

私:「今いるところの左にはアトレに通じる改札口があります。そして、右には大きい改札口があります。」

彼:「なるほど、2つの改札口が向かい合っている、ということですね。」

私:「そうです。乗り換えホームはこの少し先です。」

そこから彼を各駅停車のホームに降りる階段まで連れて行きました。

私:「この階段を下りると、各駅停車のホームです。」

彼:「わかりました。もう大丈夫です。ここで結構です。どうも、ありがとうございました。」

私:「いえいえ、では。」

こうして、私は彼と別れ、松戸駅の改札口を出ました。

目が見えない世界。

いったい、どんな感じなのか、私には想像することしかできません。

全盲の彼もまた、もし生まれついて目が見えないのだとしたならば、私たちが見えている世界を想像することしかできないのかもしれません。

ただ言えることは、彼は自分の頭の中に、きっと「彼にしか見えない世界」を広げているのだろうということです。

頭の中に映し出されたイメージ。

思考力によってのみ描かれる映像。

私は常日頃から、「何かを身につけるには、自分の目で見える主観だけでなく、頭の中の思考力によって客観的なイメージを作り出すことが大切だ」と生徒達に話しています。

頭の中の思考力によって生み出されたイメ
ージは、その人の「知性」を引き出します。

そして、実際に目が見えようと見えまいと、「思考力によって客観的なイメージ」を生み出すことができれば、そのイメージを持たない人には決して見えないものが見えてくるのだろうと思います。

目が見えても見えなくても、頭の中で見えるもの。

昨日出逢った彼は、「見えなくても見えるものがある」ということを私に再認識させてくれました。

「見えなくても見えるもの」が見えた時、人は、誰にも頼らずに進んでいけるのかもしれません。

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