前回、英語の音読をしながら、「自分が出した音を聞く」ということが大事だと書きました。
「音を出す」という「アウトプット」の行為と、
「音を聞く」という「インプット」の行為。
これを同時に行うことが大切なのです。
「自分が出した音を聞く」ということは、「自分の声を、自分の耳で聞く」ということです。
そんなのカンタンだ、と思っている人もいるかもしれませんが、意外とそうでもありません。
人間、自分の声は「当然、自分の耳で聞こえている」と思っている人が大半でしょうが、実は、そうでもないのです。
人は、自分の声だけは、「耳」だけでなく「別のもの」を使って聞くこともできます。
それは、「自分の頭の中を伝う振動」です。
当たり前の話ですが、人間の「声」というものは、声帯で発された振動、あるいは舌や唇や歯や喉を使って出された摩擦などが合わさってできた「音」です。
普通、「音」は「空気中」に伝わるため、自分だけでなく、同じ空間にいる他の人の耳にも届きますね。
つまり、「人が発した声」は、いったんその人の身体の「外」に出て、空気中を伝ってから、また「人の耳」に届くのです。
これを、ここでは「外の声」と呼ぶことにしましょう。
ところが、声を発した当の本人だけには、「外の声」だけでなく、「もう1つの声」も聞こえます。
「自分が発した声」は、身体の「外」に出るだけでなく、自分の「頭の中」にも伝わっていきます。
つまり、「身体の中を伝う振動」が、外にでることなく、そのまま脳に伝わるのです。
これを「中の声」と呼ぶことにします。
人間は、「自分の声」については、「外の声」と「中の声」の両方を聞いていることになります。
この2つの音が混ざると、「外の声」だけで聞くときとは少し違った音となります。
このため、自分の声を録音したものを後で聞くと、たいてい誰もが「いつもの自分の声と違う」と感じてしまいます。
録音された声には、自分が声を出す時に聞こえる「中の音」が含まれませんから、「外の音」のみ、つまり、自分以外の人と同じ条件で自分の声を聞くことになります。
自分の声を録音して聞いた時に、「自分の声は、他人にはこんなに”変な声”で聞こえているんだ」と思って落ち込んだ経験はありませんでしょうか?
自分では「変な声」と思っても、それはいつも自分が「外の声」と「中の声」とのミックスで聞いている音とは「違っている」からであって、他の人達は、別にあなたの声を「変な声」と思っているわけではないのです。
声には人それぞれの特徴があり、個性なのですから、自分の声には誰だって自信を持って良いのです。
さて、話が逸れましたが、人間が声を出すとき、「外の声」と「中の声」の両方を聞くことができる、ということがご理解頂けたでしょうか。
それで、英文を音読する際に問題なのは、「中の声」は自然と聞こえているけれど、「外の声」は自然と聞こえていない、という場合です。
そのような状況に陥っている人は意外に多く、10年以上の発音指導の経験から感じるのは、「日本人のおよそ半分」くらいといった感じです。
「自分の音なのに、耳で聞いていない」なんて、そんなわけない、と思われる方がいらしたら、その方は、「外の声」もきちんと聞こえている人なのかもしれませんし、あるいは、「聞こえているつもりになっている」だけの人なのかもしれません。
「耳」を使って発音するということができないうちは、「他人がどのように聞こえているか」を知らずに発音することになり、いつまでも他人に通じる発音にはなりません。
「自分にとっての自然な発音」が、「他人にとっての自然な発音」とは違っていることもあるのです。
その「違い」に気づかずに音読練習をしても、練習量が「成長」へとつながっていきません。
どんなことでも、成長へとつながらない練習というものは、本当に悲しいものです。
「自分の声」を「自分の耳」で聞いて、「中の音」だけでなく「外の音」もしっかり聞いて、「他人にはどのように聞こえているのか」ということを常に意識するのが、音読をする上で非常に重要なのです。