<前回の続き>
私(久末)は、基本的には(今のところは)子供向けの早期英語教育には「否定派」ですが、世の中には自分の子供の英語教育に一生懸命な親たちがたくさんいます。
では、そのような人たちはなぜ早期の英語教育に力を入れようとするのでしょうか?
そのメリットについて考えてみます。
まずよく聞くのは、「小さい頃から始めた方が、『脳』が柔軟なうちに英語を身につけることができるから」というもの。
「脳」という話が出てきたら私もそれなりにうるさいですよ~(笑)
確かに、生まれたばかりの赤ん坊の脳は「未発達・未開発」な状態です。
人間の脳は「神経細胞(ニューロン)」が集まってできています。
その神経細胞の数は、赤ん坊の頃が一番多く、その後は減る一方。
神経細胞の話の前に、身体をつくる「普通の細胞」について簡単におさらいしましょう。
神経細胞以外の普通の細胞は、生まれた後も分裂を繰り返し、分裂した「核」を中心として新しい細胞をどんどんつくっていきます。
つまり「核」だけは生かしておいて、細胞自体が古くなったら新しい細胞を作っていく、いわゆる「新陳代謝」というものを繰り返すのです。
ところがどの細胞も、「いつまでも、何回でも繰り返し分裂する」というわけではありません。細胞の「核」が分裂できる回数には限界があるのです。
悲しいことですが、身体のどの細胞も、ある程度の回数の分裂をした後は、もう分裂しなくなります。これがいわゆる「老化」や「寿命」ということになるのです。
ここで神経細胞(脳の細胞)の話に戻ります。
神経細胞も細胞ですから、分裂をするはずです。
しかし、神経細胞は、生まれる前の時点で、母親のお腹の中にいる時点で、既に限界回数まで分裂してしまうのです。
だから生まれた後は、神経細胞は分裂しません(一部の神経細胞は生まれた後も分裂するということが最近は分かってきたようですが)。
つまり「神経細胞の数」は生まれたての赤ん坊の時点が一番多いということです。
しかし、脳の重さは、生まれた時点では「400グラム」程度です。
成人になると「1300~1500グラム」程度と言われています。
神経細胞の数は赤ん坊の頃が一番多いのに、どうして大人になると脳の重さが増えるのでしょうか?
神経細胞が一番多い赤ん坊の頃は、実は、神経細胞同士をつなぐ「線」が未発達なのです。
神経細胞を1つ見てみると、そこからいくつもの「触手」が伸びています。
この触手が他の神経細胞と「接続」していくことで、そこに「電流」が流れるようになり、回路として機能していくのです。
この触手(正確には「軸索(じくさく)」と「樹状突起(じゅじょうとっき)」という名称)は、外部からの刺激に反応して、どんどん伸びていきます。
伸びた触手が別の神経細胞と接続していく、という「建設工事」は生まれる前から始まるのですが、生まれた時点ではまだこの建設工事はほとんど未完成。
生まれた後、脳の重さが増えていくのは、神経細胞が増えるのではなくて、この「触手」がどんどん増えていくことによるものです。
それぞれの神経細胞から伸びた触手(軸索)の一番先端の部分は、他の神経細胞の本体や触手と接します。そして伸びた触手の末端のことを「シナプス」と言い、その結合部分のことを「シナプス結合」と呼びます。
生まれたての赤ん坊は「神経細胞の本体」の数は一番多いのですが、「シナプス結合の数」と「触手(=軸索&樹状突起)の本数」はものすごく少ないのです。
シナプス結合の数で言えば、成人で「100%」とするならば、3歳までに「60%完成」、6歳までに「80%完成」、そして10歳ではなんと「95%完成」と言われています。
つまり、3歳の時点で、相当な数のシナプス結合が形成されてしまうということになります。
触手の伸び方とシナプス結合の仕方によって、脳の中にできる「回路」が異なっていきます。
母国語が「日本語」となるか「英語」となるかは、3歳までの言語環境によって異なります。
言語環境が「日本語」ならば、脳には「日本語」の回路が出来上がっていきますし、また言語環境が「英語」ならば「英語」の回路が出来上がっていくのです。
全く未開発だったところから「回路を作り上げていく」という過程で、初めから「日本語」と「英語」を同時にインプットしていく環境があれば、脳の回路自体が「2カ国語」として出来上がっていくのです。
しかし大人になってから外国語を学ぼうとすると、そもそも「母国語(日本語)」で出来上がった回路を使って、あるいはわずかに残った脳の隙間を使って、かろうじて「外国語」の回路を作っていくことになります。
だから、我が子に外国語を身につけさせようとするならば、年齢が低ければ低いほど良い、ということになるわけです。
うわ~、これを聞くと、ますます「小さいうちから英語をやらせなくては!」と思ってしまうかもしれません。
でも、この話は単に「脳の神経科学」という側面でしか捉えていません。
この話だけを鵜呑みして、「子供に早期の英語教育を!」と意気込むのはまだ早いと言えます。
では、次回は、これに対する「反論」をご紹介します。
くれぐれも、早まらないように!
<続く>
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