大人に英語を教える日々を過ごしながら、時々思うことがあります。
「素直なことは、いいことだろうか?」
生徒の中には、本当に「素直」で、疑うことを知らず、なんでもこちらの言うとおりに「はい、頑張ります!」と努力する人がいます。
こういう人は、教える側から見てとても心地よく、「あ~、いい生徒だな」と思ってしまいます。
ところが、時々、あまりに「素直」すぎて、「自分で考える」とか「自分で納得する」ということをほとんど意識しない人もいます。
文法書に書かれている内容を、そのまま疑いもせずに「ふ~ん、そうなんだ、覚えよう。」という具合に丸呑みにしてしまうのです。
丸呑み式に「記憶」だけで勝負しようとする人は、決まって次の授業ではすっかり忘れてきたり、あるいは「具体例を挙げて欲しい」と言うと「わかりません」と簡単に諦めてしまいます。
前にこのブログで「問う人と答える人」というテーマで記事を書きました。
(記事はこちら。)
このことに関して、もう少しお話します。
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A君、B君という2人の男の子がいたとします。
2人とも、テストで100点満点を取りました。
お互いに友達同士なので、お互いの点数を聞いて「あ、俺とお前は同じくらい優秀なんだな。」とどちらも思います。
2人の親もそうです。「うちの子とB君は、同じくらい優秀なんだな。」「A君もうちの子と同じくらいできるんだわ。」
また、学校の先生も同じです。「A君もB君も、同じくらい優秀だ。将来が楽しみだ。」
2人とも同じ「100点満点」ですから、一見すると違いが分かりません。
ところが、2人の違いをよく観察してみると、大きな違いがありました。
A君は、そのテストの問題100問のうち、全て100問の「答え」を予め知っていたのです。
もちろん、テスト中にズルをしたわけではありません。
事前に勉強した成果なのは言うまでもありませんが、A君は、100問だけでなく、1000問近くの問題と答えを全て覚えていました。
「この問題の答えはこれだ。」というように、「問題」と「答え」を直結させて記憶していたのです。
覚えた1000問近くの「問題と答え」の中から、100問がそのままテストで出てきたのです。
だからA君はどんどん問題に答えていくことができ、そのスピードはものすごく速かったのです。
一方、B君はと言えば、A君のようには答えを全て記憶していたわけではありませんでした。
学校や塾では、「この問題の答えはこれだ」と教えることがあります。
先生達も、どんどん次へと進まなくてはなりませんから、間の説明をしないで、とにかく「この問題の答えはこれだ」というように「問題」と「答え」をダイレクトに教えていくことがあるのです。
A君は「素直」なので、「問題」と「答え」を教わった時に「そうか、そうなんだ」というように、持ち前の記憶力の良さで、何も疑問に思わずにどんどん覚えていったのです。
ところがB君は違いました。
B君は、「その問題の答えは、どうしてその答えになるのですか?」と先生に問いかけます。
「問題」と「答え」だけをダイレクトに教えたい教師にとって、B君のような質問はやっかいです。
「いいから、そんなことを考える暇があったら、1つでも問題と答えを覚えた方が試験では役に立つぞ。」
正直、私(久末)もこの先生のような見解になることがあります。
「なぜ? なぜ?」に意識が行くあまり、たくさんの量をこなせないのは困りものです。
特に英文法において「なぜ?」を突き詰めていくと、教師ですら知らない領域に足を踏み入れなくてはなりませんから、上の教師のように答えざるを得ない時もあるのです。
しかし、万事がその調子では、B君のような生徒は「納得」しません。
仕方なくB君は、自分で教科書や参考書などを調べたり、あるいは、自分の「思考能力」を駆使して、「問題」と「答え」がどうしてつながるのか、「その間」の部分を自力で埋めていくことにしました。
まずB君は、「問題」の部分に含まれている情報「a」から、すぐに連想することのできる別の情報「b」を思い浮かべました。
情報「a」と「b」は、イメージとしては遠くないので、すぐに思いつくことができます。
しかし「b」は「答え」からはまだほど遠いと言えます。
次にB君は、情報「b」から、また別の情報「c」へと思考をつなげます。
情報「b」と「c」もまたそう遠くないイメージなので、つなげるのは容易です。
そして、情報「c」から、今度は情報「d」へとつなげていき、その後も同様にその手順を繰り返していきました。
その結果、ついにB君は「答え」となる部分へと「つながり」を見出してしまいました。
「なるほど! だからこの問題の答えはこれになるのか!」
自力で「問題」と「答え」のつながりを見出し、納得と喜びを手にしたB君は、次にこのように考えました。
「ということは、仮に、こういう問題があったとしたら、答えはどうなるかな?」
なんとB君は、教科書や問題集にも載っていないような「問題」を自分で作り出し始めました。
そして、自分で作った問題についても、同じように1つの情報から別の情報へとつないでいき、全て自分で「答え」まで出してしまいました。
「こういう問題が仮にあったとしたら、答えはきっとこうに違いない。」
このように、問題そのものも「自分」で作ってしまいましたが、その答えについても「自分」で出してしまったのです。
さて、テストの時、B君は、100問の問題のどれも事前には見たことがありませんでした。
しかし、B君は、テスト前に自分でやったのと同じ要領で、100問全ての「問題」について、それぞれ途中いくつかの「情報」へとつないでいくことによって、見事「答え」を出すことに成功したのです。
答えを知らなくても、情報をつなぐことによって、答えを出したのです。
もちろん、A君のようにスピーディーにはいきません。
それでもB君は、テストの制限時間をいっぱいに使って、全問を解くことができたのです。
そして見事に、B君は100点満点を取りました。
A君が「問題」と「答え」をダイレクトにくっつけて記憶したのに対し、
B君は「問題」と「答え」の「間のつながり」を考え、その「法則」を見出
したのです。
後日、A君とB君は、どれくらいの時間がかかってテストを終えたかについて話しました。
すると、A君は、テスト時間「60分」のうち、最初の「15分」で全て終わったと言いました。
一方B君は、テスト時間ギリギリまでかかったと言います。
A君は「じゃあ、俺の方が早いから、同じ100点でも、俺の方がすごい。」と言い、またB君も「A君の方が早いから、負けた。」と思ってしまいます。
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さて、ここで質問。
社会に出てから、仕事をする上で活躍していくのはA君とB君のどちらだと思いますか?
ダイレクトに覚える力(記憶力)に優れたA君。
情報をつなげていく力(思考力)に優れたB君。
もちろん、世の中には色々な仕事がありますから、適材適所で、どちらの方が活躍するとは一概に言えないかもしれません。
でも、このこと、ちょっと考えてみませんか?
<続く>